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戦場と氷

「本番のステージは戦場のようなものである。」

そんな風にずっと思っていた。

確かに、毎回本番の前は、戦場に向かうようなある種の悲痛な決意を感じて一歩を踏み出す。

もちろん実際の戦場はそんな生易しいものではないだろうけど・・・

戦場。

勝つか負けるか?

勝たない限りは生きて帰って来れないのか?

ちょっと前に友人に「ステージは戦場だ。」と話をしてから、

なんだか逆に自分の中に疑問が湧いてきた。

何か違うような気がする。

自分は一体何に勝ちに行ってるんだろう。

負けとはなんだ?

失敗しないこと?

いや、そんなことは簡単なこと。

失敗しない”だけ”なら笑いながらでも出来る。

最高にうまく弾こうと思わなければいいだけ。

じゃあなんだろう。

最高にうまく弾くことが勝ち?

いや、確かにそれは目指すところではあるんだけど、

そこがゴールではないような気がする。

なんだろう。

しばらく考えていたんだけど、

小田珈琲館の後に、ファンの頭領のような方(笑)に、

「日々忙しくて大変だけど、いつも演奏聞いてパワーをもらっとるんよ。」

と言われた時に、謎が解けた。

いや、その時すぐには解けなかったのかな。

その時は、「演奏するというのは身を削るような作業だけど、それによって人が救われるならいいことだ。」

くらいにしか思わなかったかもしれない。

でも違う。

救われているのは結局僕自身なんだ。

僕はこう見えて、世界を常に拒絶しながら生きているようなところがある。

そうじゃないと自分が壊れてしまうから。

必要以上に論理的に物事を考えてしまうのも、たぶんそのせい。

論理の枠に自分を押し込めていないといけない何かがあるから。

たとえば、リストとかもきっとそういう人だったんだろうと思う。

そんな僕にとって、音楽というのは自分の心の奥底の、自分自身に対してすら隠された部分を表す唯一の手段。

言葉では表せない。

音によってのみ、その部分は解き放たれる。

と言っても、音を出せばすぐに出てくるほど単純なものではなくて、幾重にもプロテクトされた扉を開くのは相当な覚悟とエネルギーが必要となる。

そこで、「戦場に出て行く」ような悲痛な心持が必要になってくるわけだ。

目的は勝つことではなくて、解き放つこと。

そして、そこもまだゴールではなくて、大切なのはそれによって誰かが心から共感してくれること。

心から。

それによって、僕が自分で封じ込めた奥底の繊細な部分が開かれる。

氷が少し解ける。

そのためだったんだ。

誰かの気持ちがこっちにまっすぐ向かってくることによって、自分も生かされている。

自己顕示欲とか、来るもの拒まずとか、そんな軽い次元の話ではなくて、本当の意味で。

音楽は人の魂の救済、なんて言ってるけど、

結局人間、一番救ってるのは自分自身の魂なのかもしれないね。

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音楽」カテゴリの記事

コメント

私の中にも氷があります。
だから伝わりました。ものすごく。
こんな言葉では足りないくらい、わかりました。
そして安心しました。
解き放てたときに開ける世界が見たいから、怖くても踏み出して行きたいです。

投稿: hiroe | 2009年9月 2日 (水) 06時49分

松本さんの言葉をかみ締めて、気が付けば三日も過ぎてしまいましたcoldsweats02

子供たちにも伝えなければと勝手に思っています。

音楽には人間性が出るんだと話にも聞き、本当だなぁと感じてもいましたが、こうしてはっきりと言葉になさったのを読むと、より重みを感じます。

この言葉、かみ締め続けます・・・
confident

投稿: ひなママ | 2009年8月31日 (月) 10時24分

はじめまして。ピアノ同業者です。
こんな境地に辿りつかれている松本さんに感動しました。そうして言葉の端々からたくさん学ばせていただきました。ブログを通じて、お知り合いでもないのに、勝手に松本さんの心のなかを拝見してしまった!的感覚ですが、ブログがあったからこそ、こんなにも松本さんを知る機会となっていること、両方の気持ちでいます。むしろ嬉しいほうが勝っています。

投稿: Yoko | 2009年8月31日 (月) 00時22分

とても大切なお話をありがとうございました

松本さんの音楽の秘密が垣間見えた思いがします。
お若いのに偉いです!

松本さんは、言葉にならないほど繊細なのだと分かって、自分の言動に冷水三斗でした。(もし何かしら傷つけていたら、本当にごめんなさい)

でもだからこそあの松本さんの美しい音がピアノから紡ぎだされるのですね

世界中で唯一人、松本さんにしか出せない音だと思います。
もし戦うとしたら、それは自分自身かもしれません?

私は老婆心が強い所があるので、今後はとやかく言わずに、ただ松本さんの奏でる音楽だけに耳を澄ましていこうと思いました♪

10月のショパンのコンサート楽しみにしています
\(^_^)/

投稿: 眠り猫2 | 2009年8月29日 (土) 19時18分

>でも違う。
>救われているのは結局僕自身なんだ。

うわあああああああ、
朝からズシンと感動、しました。

松本くん、昔「ヒーリング(ミュージック)、とかいうのは嫌い」って言ってたけど、それはむしろ、本物の癒しの希求だったのだろうか、と、ふと思いました。

投稿: ミナ | 2009年8月29日 (土) 08時51分

うーん、深い話だね。そう言う意味では芸術とは、聴衆との魂のぶつかり合いと言えるレベルの演奏を指しているのかも知れないね。
なかなか、そのような演奏には巡り合えないけど・・・

投稿: HM | 2009年8月29日 (土) 08時00分

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